「自毛植毛を検討しているけれど、ドナーとなる後頭部の毛を取りすぎてスカスカにならないか心配……」
「手術を受けた人の写真で、後ろが透けて見えるのを見て不安になった」
結論として、経験豊富な医師が適切な密度で採取を行えば、後頭部がスカスカで透けて見えることはありません。
自毛植毛は薄毛治療の最終兵器とも言える効果的な手段ですが、「採取部(後頭部)」へのダメージを心配される方は非常に多くいます。せっかく前髪や頭頂部が増えても、後ろが不自然に薄くなってしまっては本末転倒ですよね。
しかし、中には「取りすぎ(オーバーハーベスト)」による失敗や、一時的な「ショックロス」によって薄く見えてしまうケースが存在するのも事実です。
この記事では、自毛植毛専門のリサーチャーとしての視点から、「なぜ後頭部がスカスカになるケースがあるのか」という原因と、そうならないための予防策、そして万が一薄くなってしまった場合の対処法までを解説します。
結論:適切な自毛植毛なら後頭部はスカスカにならない
まず安心していただきたいのは、現代の標準的な自毛植毛(特にFUE法やFUT法)において、適切なガイドラインに従って手術が行われれば、他人が見て「あの人、後頭部が変だ」と気づくレベルでスカスカになることはほぼないということです。
人間の髪の毛は、元々ある程度の密度があります。これを「ヘア・デンシティ(Hair Density)」と呼びますが、実は元の髪の量の20〜30%程度減っても、人間の目には「薄くなった」とは映らないという視覚的な特性があります。
「スカスカ」に見える原因は主に2つある
それでも「術後に後頭部が薄くなった」と感じる人がいるのはなぜでしょうか。原因は大きく分けて以下の2つに分類されます。
- 一時的な現象:ショックロス(時間が経てば治る)
- 永続的な問題:オーバーハーベスト(取りすぎによる失敗)
この2つは「いつ起こるか」「治るか治らないか」が全く異なります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
原因①:一時的な「ショックロス」による薄毛
術後1ヶ月〜3ヶ月頃に、「あれ? 手術前より後頭部が薄くなった気がする……」と感じる場合、その多くは「ショックロス(Shock Loss)」と呼ばれる一時的な脱毛現象です。
術後1〜2ヶ月で起こる脱毛のメカニズム
ショックロスとは、手術に伴う麻酔の影響や、皮膚への物理的な侵襲(切開やパンチ穴)による局所的な炎症などが原因で、ヘアサイクル(毛周期)が乱れ、一時的に髪が休止期に入ってしまう現象です。
- 発生率: 全体の約20%程度の人に起こると言われていますが、個人差が大きいです。
- 症状: 採取した周辺の既存の毛が、ハラハラと抜け落ちて密度が下がります。
これは「失敗」ではなく、手術に対する体の防御反応の一種です。特に、元々髪が細い方や、一度に大量の株数(グラフト)を採取した場合に起きやすい傾向があります。
ショックロスはいつ治る?回復までの期間
重要なのは、ショックロスで抜けた毛は、毛根が死んだわけではないという点です。
- 発生時期: 術後1ヶ月〜3ヶ月頃がピーク
- 回復時期: 術後4ヶ月〜6ヶ月頃から徐々に新しい毛が生えてくる
- 完全回復: 術後1年程度で元の状態に戻る
もし、術後数ヶ月で「後頭部が透けて見える」と焦ってしまっても、半年〜1年待てば自然に元通りになるケースが大半です。この時期は不安になりがちですが、焦らず経過を見守ることが大切です。
原因②:人為的なミス「オーバーハーベスト(取りすぎ)」
最も避けなければならないのが、「オーバーハーベスト(Over-harvesting)」です。これは、医師の技術不足や無理な計画によって、後頭部の採取限界を超えて毛根を抜いてしまった状態を指します。
この場合、毛根そのものが無くなっているため、待っていても髪は生えてきません。永続的にスカスカな状態が続きます。
【重要】後頭部から採取できる毛根の限界数値
日本人の後頭部の毛髪密度は、一般的に1平方センチメートルあたり約60〜80グラフト(毛包)と言われています。また、1つの毛穴から2〜3本の毛が生えているため、本数にするとさらに多くなります。
医学的に、後頭部の見た目を変えずに採取できるのは、全体の密度の20%〜25%程度までとされています[1]。
- 安全圏: 全体の25%以下
- 危険圏: 全体の30%以上を採取
例えば、後頭部の密度が低い人から無理やり3000グラフト、4000グラフトといった大量の植毛(メガセッション)を行おうとすると、局所的に採取率が30〜50%に達してしまい、明らかに「髪が減った」「地肌が透ける」状態になります。
なぜ医師は取りすぎてしまうのか?経験値の差
なぜこのような失敗が起こるのでしょうか。
- 密度の計算不足: 事前にマイクロスコープ等で正確な密度を測らず、「経験則」だけで採取している。
- 採取範囲の狭さ: 本来なら後頭部全体からまんべんなく採取すべきところを、手術しやすい特定のエリア(例えば耳の後ろなど)から集中的に採取してしまう。
- グラフト切断率の高さ: 技術が未熟で、採取の際に毛根を切断してしまい(ロス)、予定数を確保するためにさらに多くの穴を開けなければならなくなる。
これらは全て、クリニックの選定ミスによって回避できるリスクです。
術式別・後頭部はどうなる?(FUE法 vs FUT法)
自毛植毛には大きく分けて、メスを使わない「FUE法(くり抜き式)」と、メスを使う「FUT法(切開式)」があります。それぞれ、後頭部への影響が異なります。
FUE法(くり抜き式):虫食い状に透けるリスク
現在主流のFUE法は、直径0.8mm〜1.0mm程度のパンチブレードで毛根を一つひとつくり抜きます。
- 後頭部の状態: 小さな白い点状の傷跡(ホワイトスポット)が無数に残ります。
- スカスカに見える条件: 傷跡自体は小さいですが、密度が下がりすぎると、白い点々が密集して見えたり、全体的に「蛾に食われたような(moth-eaten)」透け感が出たりします。
- 髪型: 髪を数センチ伸ばせば全く分かりませんが、スキンヘッドや極端な刈り上げ(フェードカット)にすると、点状の傷跡が見える可能性があります。
FUT法(切開式):線状の傷跡とカバーのしやすさ
FUT法は、後頭部の皮膚を帯状に切り取り、そこから株を分けます。
- 後頭部の状態: 横に一本、線状の傷跡が残ります。
- スカスカに見える条件: 傷跡の幅は通常1mm〜3mm程度ですが、皮膚の弾力が弱い場合や縫合技術が低い場合、傷幅が広がることがあります。
- メリット: 皮膚ごと切り取って縫い縮めるため、「残った部分の髪の密度」自体は変わりません。 そのため、髪を少し伸ばして傷跡さえ隠せば、全体的な毛量のボリューム感はFUTの方が維持しやすいという意見もあります。
刈り上げない植毛(ノンシェーブン)のメリット・デメリット
最近では、後頭部をバリカンで刈り上げずに採取する「ノンシェーブン法(アンシェーブン法)」も人気です。
- メリット: 術直後から後頭部の変化がバレにくい。既存の髪で採取部を隠せる。
- 注意点: 医師にとっては手技が難しくなるため、時間がかかり費用も高額になります。また、見えにくい分、乱雑に採取されると後で気づくことになるため、より高い技術力が求められます。
後頭部がスカスカにならないためのクリニック選び
「後頭部スカスカ」を避けるためには、以下のポイントでクリニックを厳選する必要があります。
マイクロスコープで正確な密度測定をしているか
カウンセリング時に、医師やカウンセラーがマイクロスコープを使って後頭部の密度を測定しているかを確認してください。「だいたいこれくらい取れますよ」と目視だけで判断するクリニックは危険です。「あなたの後頭部は1平方センチあたり何グラフトあるので、安全に取れるのは〇〇グラフトまでです」と数値で説明してくれるクリニックを選びましょう。
ドナーの採取範囲を広く分散させているか
大量の植毛が必要な場合、後頭部の中央だけでなく、側頭部(サイド)に近い部分まで広範囲から少しずつ採取(間引き)することで、密度の低下を目立たなくさせることができます。「どの範囲から採取しますか?」と質問し、採取エリアのデザインをしっかり行っているか確認しましょう。
すでに後頭部が薄い・スカスカに見える場合の対処法
もし、過去の植毛手術や、他院での手術によって「すでに後頭部がスカスカになってしまった」と悩んでいる場合でも、諦める必要はありません。いくつかの解決策があります。
ヘアスタイルで隠す(ツーブロック・長髪)
最も即効性があるのは髪型によるカバーです。
- ツーブロック: 中途半端な長さだと透けて見えますが、被せる上の髪を長く残すツーブロックなら、採取部を完全に隠すことができます。
- 長さを残す: スキンヘッドやボウズは避け、最低でも3〜4cm程度の長さを保つことで、髪の重なりによって密度不足をカバーできます。
SMP(ヘアタトゥー)で密度を視覚的に補う
現在、最も注目されている修正方法がSMP(Scalp Micropigmentation)です。これは、頭皮に微細なドット(点)を描き入れ、毛根があるように見せる技術です。
- 効果: 白く抜けた点状の傷跡や、薄くなった地肌部分に色素を入れることで、地肌の反射を抑え、髪が密集しているように見せます。
- メリット: 外科手術が不要で、即効性があります。
- 注意点: 永久ではありません(数年で薄くなるためメンテナンスが必要)。技術力のある施術者を選ばないと、不自然な黒い点になってしまいます。
傷跡修正(リストアリング)という選択肢
FUTの傷跡が広がってしまった場合などは、再度その傷跡部分を切り取って縫い直す「傷跡形成術」や、傷跡部分に少量の植毛を行うことで目立たなくする方法があります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 3000グラフト以上のメガセッションを勧められましたが、後頭部は大丈夫ですか?
A. 日本人の場合、一度の手術で3000グラフト以上採取すると、後頭部への負担がかなり大きくなります。元々のドナー密度が非常に高い人であれば可能ですが、そうでない場合は2回に分けて手術を行うなど、慎重な計画が必要です。無理な大量採取はスカスカの原因になります。
Q2. 術後、後頭部にかゆみや痛みはありますか?
A. 術後1〜2週間は、傷が治る過程でかゆみやチクチクした痛みを感じることがあります。また、知覚が一時的に鈍くなることもありますが、通常は数ヶ月で改善します。かきむしると傷跡が汚くなるので注意してください。
Q3. 「刈り上げない植毛」ならスカスカになりませんか?
A. 「刈り上げない」ことと「スカスカにならない」ことはイコールではありません。刈り上げない方法は「術直後の見た目を隠せる」だけです。内部で過剰に採取してしまえば、髪をかき上げた時に薄くなっていることはあります。むしろ、医師の視野が悪くなる分、正確な間引き技術が求められます。
Q4. 後頭部の髪はまた生えてきますか?
A. 採取した部分(くり抜いた毛穴)からは、二度と髪は生えてきません。自毛植毛は「髪の引っ越し」であり、総数を増やすわけではないからです。だからこそ、「いかに間引いたことがバレないように散らして取るか」が重要なのです。
Q5. スカスカになってしまったら、もう一度植毛できますか?
A. 後頭部の密度が限界まで下がっている場合、それ以上の採取は不可能です。その場合は、ヒゲや体毛をドナーとして利用する方法や、前述のSMP(ヘアタトゥー)でのカバーを検討することになります。
まとめ:後悔しないために、リスクと対策を正しく知ろう
自毛植毛で後頭部がスカスカになるかどうかは、「元々の髪の密度」と「医師の採取技術・計画」のバランスで決まります。
- 通常、適切な採取(密度25%以下)であればスカスカにはならない。
- 術後数ヶ月の「透け」はショックロスの可能性が高く、回復する。
- 過剰な採取(オーバーハーベスト)は一生戻らないため、クリニック選びが最重要。
「大量に植えられます」という言葉だけでクリニックを選ぶのはリスクがあります。「あなたの後頭部の密度なら、ここまでが限界です」と、できないことはできないと正直に伝えてくれる医師こそが信頼できると言えるでしょう。
これから植毛を検討される方は、ぜひカウンセリングで「ドナー部の密度測定」と「採取シミュレーション」について詳しく質問してみてください。それが、将来の後悔を防ぐ第一歩となります。
(著者より) この記事が、自毛植毛に対する不安の解消に役立てば幸いです。もし記事内で触れられていない疑問があれば、信頼できる専門医のカウンセリングで直接確認することをお勧めします。まずは複数のクリニックで話を聞き、比較検討することから始めてみてください。

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