臨床研修のご案内

家庭医・総合臨床専門医研修カリキュラム

日本専門医機構研修カリキュラム案に沿って( A: 必須目標、 B: 努力目標)

カリキュラム責任者:玉野三井病院長 磯嶋浩二

到達目標:家庭医・総合臨床医として必要な能力を身につける

1.人間中心の医療・ケア

患者さん自身の持つ健康観や病気に対する理解力、特に自らの病気の告知に対する希望や終末期のビジョンについて意識を共有する。また、患者さんのご家族や職場、経済状況、嗜好、宗教といった背景を可能な限り理解しながら、患者さんやご家族が満足できる医療・ケアを提供できるようコミュニケーションを重視する。

【一般目標 1 】
患者さん中心の医療を修得する。

個別目標:
  • 患者さんの健康観や、病気に対する解釈、病院スタッフに対する期待や病気の予後に対する期待、告知の希望や終末期医療の希望を明らかにして、医療・ケアに反映することができる。 知識 A
  • 患者さんの経済環境や家庭、職場環境、嗜好や宗教などの背景を踏まえて、健康問題を理解・評価することができる。 知識 A
  • 患者さんの病気に対する治療計画や方針に関して、患者さんが良好と感じられる共通の基盤を見つけ、患者さん・医療スタッフそれぞれの役割について計画することができる。 知識 A

【一般目標 2 】
家族志向型の医療・ケアを提供する方法を修得する。

個別目標:
  • ご家族とのコミュニケーションを通じて、キーパーソンの確認と、家族図の作成や家族内の関係性の評価を実施できる。 技能 A
  • 患者さんの病気の経過にご家族が与える影響や、病気からご家族が受ける影響、病気への医療・ケアにご家族が果たす役割を評価することができる。 知識 A
  • 患者さんの病気の治療にあたって、ご家族の果たす役割を活用することができるとともに、ご家族の関係性について家族カンファレンスも含めた介入ができる。 知識 A

【一般目標 3 】
患者さんとの円滑な対話により医師・患者の信頼関係を構築しながら、 患者さん中心の医療面接を行い、患者さんの背景に適切に対応する方法を修得する。

個別目標:
  • 治療上の指示や約束を守れない場合も含め、患者さんやご家族と信頼関係を形成し、共感的な態度を示すことができる。 態度 A
  • 言語的・非言語的な患者さんとのコミュニケーションの技術(相槌、繰り返し、要約、明確化、指示、質問等)を適切に利用することができる。 技能 A
  • 患者さんの病気に対する理解、感情、医療スタッフや予後に対する期待、病気が周囲にもたらす影響を適切に聴取することができる。 技能 A
  • 患者さんの背景としての家族関係、生活環境、職場環境、経済状況、嗜好などを必要に応じて聴取することができる。 技能 A
  • 患者さんの病気の治療方針に関して、医療の適応と限界、費用対効果などを踏まえ、患者さんやご家族と共通の認識を持って、患者・家族・医療スタッフ、それぞれの役割について合意することができる。 技能 A
  • 複雑な家族関係が治療上の問題となる場合、ご家族との面談や家族カンファレンスを実施することができる。 技能 A

2.包括的統合アプローチ

プライマリーケアにおいては、病気の初期の、はっきりしない多様な訴えに対し、適切な臨床的推論に基づいて診断・治療を開始し、複数の慢性疾患の管理や複雑な健康問題に対する対処、更には健康増進や予防医療まで、多様な健康問題に対する包括的なアプローチが求められる。

【一般目標 1 】
病気の初期で診断を確定するのが困難な、はっきりしない患者さんの訴えに対応し、また複数の病気を抱える患者さんに対しても、安全で費用対効果に優れ、不確実性や自己の限界を踏まえた医療・ケアを提供する能力をみにつける。

個別目標:
  • 患者さんの年齢や性別にかかわらず、あやふやで多様な健康上の訴えに対して相談にのることができる。 知識 A
  • 複数の病気を抱える患者さんに対して、診断・治療において統一感のある医療・ケアを提供できる。 技能 A
  • 複雑な病態生理や完治困難な病気において遭遇する“医療の不確実性"や“医療の限界"に耐え、医療・ケアを提供し続けることができる。 態度 A
  • 自身の能力と限界を踏まえたうえで、他科への紹介や高次の医療機関への紹介を、妥当かつ適時に判断することができる。 知識 A

【一般目標 2 】
地域住民が最初に受診する場として、見逃しがなく安全で効率的な医療・ケアを提供するために、適切な臨床的推論の能力を身につける。

個別目標:
  • 患者さんの訴えに対して、適切な病歴聴取と身体所見及び精神心理状態の評価を行うことができる。 技能 A
  • 年齢や性別、あるいは地域での有病率や発生率を考慮した適切な鑑別診断を挙げることができる。 知識 A
  • 実施可能な検査の中で、行うべき検査を適切に選択し、結果を解釈し、鑑別診断を絞り込むことができる。 知識 A
  • 科学的根拠や診療ガイドラインを踏まえ、他科の医師や高次医療機関の専門医からのアドバイスも含めた様々な情報を吟味し、臨床決断に用いることができる。 知識 A
  • 安全性が高く効率的な医療・ケアのプランについて、患者さんとともに意思決定して優先順位をつけて柔軟に実施することができる。 知識 A

【一般目標 3 】
日常診療を通じて、恒常的に健康増進や予防医療、リハビリテーションを提供することができる。

個別目標:
  • 患者さんのモチベーションを高め、良好な生活環境や食生活、体力維持をするために、適切なカウンセリングや情報提供をすることができる。 知識 A
  • 健康診断などのスクリーニング評価を通じて、生活習慣病や他の疾患の前兆を早期に把握して、必要な医療・ケアを提供することができる。 知識 A
  • すでに発症した病気やケガによる生活機能の低下を最小限にし、患者さんの生活の質を維持するために、理学療法士や作業療法士と連携したリハビリテーション等を適切に提供できる。 態度 A

【一般目標 4 】
医師・患者関係の継続性、地域の基幹病院としての地域住民や他の医療機関との継続性、診療情報の継続性などを踏まえた医療・ケアを提供する能力を身につける。

個別目標:
  • 患者さんの抱える健康上の問題について継続的にかかわり、そこで得られた生活背景や医師・患者の信頼関係を診療に活かすことができる。 知識 A
  • 患者さんやご家族の抱える解決困難な苦悩に対しても、身近な存在として傾聴し支え続けることができる。 態度 A
  • 地域の基幹病院としての役割を十分に理解して、長期的な地域との関連性を踏まえた医療・ケアを提供することができる。 知識 A
  • 診療情報の継続性を保ちながら、他の医療スタッフと内容の共有をはかり、学術的利用にも耐えうるように、過不足なく適切な診療記録を記載することができる。 技能 A

3.連携重視のマネジメント

患者さんの多様な健康上の問題に的確に対応するためには、地域の多職種との良好な連携体制の中での適切なリーダーシップの発揮に加え、他の医療機関や介護サービス機関との円滑な切れ目ない連携が欠かせない。また、当院内での他の医療スタッフとの良好な信頼関係の構築は、患者さんへの質の高い医療・ケア提供の基盤となり、常に周囲との連携を重視したマネジメントを行う必要がある。

【一般目標 1 】
患者さんやご家族に対して地域で医療・ケアを提供する際に多職種チーム全体で臨むために、様々な職種の人と良好な人間関係を構築し、リーダーシップを発揮する能力を身につける。

個別目標:
  • 共に働く多職種に対して尊敬の念を払い、共感的であり、誠実である。 態度 A
  • 地域の医療・介護・保健・福祉職と協働することができる。 態度 A
  • 地域の医療機関・福祉機関・行政機関と協働することができる。 態度 A
  • 様々なスタッフや組織との協働において適切なリーダーシップを発揮し、個々の患者さんの医療・ケアにおいてチームの力を最大限に発揮することに貢献できる。 技能 A

【一般目標 2 】
患者さんやご家族に、切れ目ない医療及び介護サービスを提供するために、当院のスタッフのみならず他の医療機関や介護サービス機関との連携が円滑にできる能力を身につける。

個別目標:
  • 他科や高次の専門医療機関へ患者さんを紹介するタイミングを理解して、適切に紹介できる。 知識 A
  • 患者さんの転送や緊急時の搬送を安全かつ適切に実施することができる。 技能 A
  • 他の医療機関、介護施設から当院に紹介される患者さんについて、適切な情報を収集し、医療・ケアの連続性を保つことができる。 知識 A
  • 当院を退院し自宅での在宅医療・ケアを受ける患者さんの退院前計画を立案し、患者さん、ご家族、当院の患者支援室、看護職員、事務職員、ケアマネージャー、地域の介護サービス機関などによる退院調整会議を適切に実施することができる。 技能 A
  • 当院から他の医療機関、介護施設へ患者さんを退院させる場合、患者さん、ご家族と十分協議の上退院先を選択し、紹介先の機関と連携しながら適切な診療情報提供書を作成することができる。 技能 A

【一般目標 3 】
当院の良好な運営に寄与するために、組織全体に対するマネジメント能力を身につける。

個別目標:
  • 患者さんが多様な健康上の問題を気軽に相談できるように、受診の利便性に配慮できる。 態度 A
  • 安全管理(医療事故、院内感染など)を行うことができる。 知識 A
  • 基本的な医療機器の管理ができる。 技能 B
  • 主な診療行為にかかる費用や診療報酬、更に保険医療の適応範囲を理解し、診療に反映できる。 知識 A
  • 当院の他の医療スタッフの管理・教育を実施できる。 技能 B

4.地域志向のアプローチ

医療機関を受診していない方も含む地域の全住民を対象にした保健・医療・介護・福祉事業に積極的に参画すると同時に、地域のニーズに応じた優先度の高い健康関連問題の積極的な把握と体系的なアプローチを通じて、地域全体の健康向上に寄与する。

【一般目標 1 】
我が国の医療制度や地域の保健・医療・介護・福祉の現状を把握した上で、地域の健康関連問題に対する事業に対して積極的に参画する能力を身につける。

個別目標:
  • 我が国の保健・医療・介護・福祉に関連する制度や背景を理解できる。 知識 A
  • 地域の保健・医療・介護・福祉に関する事業や社会資源、サービスの実態と特徴を理解し、評価できる。 知識 A
  • 地域医師会あるいは行政の一員として、地域の保健・医療・介護・福祉に関する事業に積極的に参画し、地域の健康向上に貢献することができる。 態度 A

【一般目標 2 】
地域における優先度の高い健康関連問題を把握し、その解決に対して各種会議への参加や、地域ニーズに応じた自らの診療の継続や変容を通じて貢献できる。

個別目標:
  • 医療機関を利用していない地域住民を含む地域の優先度の高い健康関連問題を把握できる。 知識 A
  • 行政や地域医師会が主催する地域の健康づくりや介護・福祉の会議、地域の医療提供体制や地域包括ケアシステムに関する会議に参加し、各種の計画立案に参画できる。 態度 B
  • 地域のニーズや医療資源の変化に応じて自身の診療範囲や診療内容を変容させることができる。 態度 A

5.公益に資する職業規範

医師としての倫理観や説明責任はもちろんのこと、家庭医、総合臨床医としての責任を自覚しながら、日々の診療にあたると同時に自己研鑽のための教育・学術活動に積極的に携わることが求められる。

【一般目標 1 】
医師としての倫理性、総合診療の専門性を意識して日々の診療に反映するために、必要な知識・態度を身につける。

個別目標:
  • 医師として求められる多様な倫理的側面に従い行動することができる。 態度 A
  • 患者さんやご家族、社会に対して尊敬の念を払い、共感的であり誠実である。 態度 A
  • 患者さんやご家族、社会に対する説明責任を果たすことができる。 態度 A
  • 患者さんやご家族の年齢、性別、社会的・経済的背景などに対して配慮することができる。 態度 A
  • 家庭医、総合臨床医の果たす役割や責任を理解し、行動することができる。 態度 A

【一般目標 2 】
常に標準以上の診断能力を維持し、さらに向上させるために、自己研鑽を積む習慣を身につける。

個別目標:
  • 自身の行動を振り返り、自己評価あるいは第三者からの評価を受ける習慣を身につけ、自身がより良い方向に改善するよう努力できる。 態度 A
  • 診療で生じる予想外の出来事を振り返り、教訓を引き出し、次の学びや実践の課題を設定することができる。 知識 A
  • 自身の成長や学びに関する目標を整理し、優先順位をつけることができる。 知識 A
  • 生涯学習に必要な情報技術を適切に用いることができる。 技能 A

6.診療の場の多様性

家庭医、総合臨床医においては、診療の現場が外来・救急・病棟・在宅と多様であり、その能力を場に応じて柔軟に適用することが求められる。

【一般目標 1 】
外来医療で、幅広い疾患や障害に対して適切なマネジメントを行うために、必要な知識・技術・態度を身につける。

個別目標:
  • 外来で遭遇する頻度の高い健康問題に対応し、相談に乗り、適切な問題解決や安定化をはかることができ、必要に応じ専門家に紹介することができる。 知識 A
  • 生活習慣を改善するために、患者さんの意識変容、行動変容を導くように対応できる。 技能 A
  • 軽症に見える重症疾患、重症外傷を見逃さず対応できる。 知識 A
  • 診断困難事例への対応ができる。 知識 A
  • 認知症の患者さんについて、本人、家族への対応が適切にできる。 知識 A

【 一般目標 2 】
救急医療で緊急性を要する疾患や障害に対する初期診療に関して適切なマネジメントを行うために必要な知識・技能・態度を身につける。

個別目標:
  • 救急外来において、重大な疾患を見逃さず、軽症救急全般及び中等症救急の一部を担当できる。 知識 A

【一般目標 3 】
病棟医療で入院頻度の高い疾患や障害に対応し、適切にマネジメントを行うために必要な知識・技能・態度を身につける。

個別目標:
  • 当院で入院頻度の高い病気、傷害の診断と治療ができる。 知識 A
  • 外来医療、在宅医療との切れ目のない連携の下で、リハビリテーション、長期入院患者の診療が適切に提供できる。 知識 A
  • 多くの病気を抱える患者さんの主治医としての機能を果たすことができる。 知識 A
  • 地域連携を活かした退院支援ができる。 態度 A
  • 終末期の患者さんへの病棟医療を適切に提供できる。 態度 A

【一般目標 4 】
在宅医療で、頻度の高い健康問題に対応し、適切にマネジメントを行うために必要な知識・技能・態度を身につける。

個別目標:
  • 定期訪問診療を行い、身体的状態の評価をご家族やケアマネージャー、訪問看護ステーションなどの介護サービス機関と共有できる。 態度 A
  • 在宅急性期医療において、在宅医療の限界を踏まえて、往診の適切な提供、入院適応の判断、予期せぬあるいは予期された看取りの対応ができる。 技能 A
  • 在宅緩和ケアにおいて、患者さんやご家族の人生観、終末期医療に対する希望などを理解し、適切な情報提供、疼痛管理、疼痛以外の症状管理、精神的ケア、看取りの対応ができる。 態度 A
  • 在宅医療に関連する制度を理解した上で、各種連携やチーム医療に必要な書類の記載、多職種連携会議への出席、多職種協働の実践、困難事例への取り組みができる。技能 A
  • 在宅医療に関連した倫理的判断ができる。 態度 A

経験目標

  1. 外来医療、救急医療、入院医療、在宅医療の現場で遭遇する一般的な症候及び疾 患への評価及び治療に必要な身体診察及び検査・治療手技を経験し実践できる。
    • 1)問診、視診、触診、聴診
    • 2)血圧、酸素飽和度の測定
    • 3)長谷川式簡易認知機能検査
    • 4)死亡診断書(死亡検案書)の作成
    • 5)入院治療計画書、退院許可書、退院抄録、介護保険主治医意見書、入院証明書、訪問看護指示書などの書類作成
    • 6)鼡径部動脈血採血の施行と血液ガス分析のデータ解釈
    • 7)中心静脈カテーテル挿入
    • 8)胸腔穿刺・腹腔穿刺による胸水・腹水排液
    • 9)気胸に対する胸腔ドレーン挿入と低圧持続吸引の管理
    • 10)気管カニューレの交換
    • 11)胃管の挿入と先端の確認
    • 12)尿道カテーテルの挿入
    • 13)NIPPV を含む人工呼吸器の管理
    • 14)腹部、頸動脈などの超音波検査
    • 15)上部消化管内視鏡、下部消化管内視鏡
    • 16)創傷処置
    • 17)褥瘡の半閉鎖療法
    • 18)整形外科的な処置と疼痛治療
    • 19)運動器リハビリ
  2. 心電図、肺機能検査、画像検査について結果を評価し異常を指摘できる。CT 、MRI については、放射線科医の所見をもとに病変を確認できる。
  3. 診療頻度の高い疾患に対する適切な投薬(処方箋の発行)ができる。
  4. 癌性疼痛に対する麻薬の投薬と鎮痛効果の評価ができる。
  5. 指導医とともに訪問診療を実践できる。
  6. 訪問看護師とともに訪問診療を実践できる。緊急往診ができる。
  7. 病棟カンファレンスで担当患者さんのプレゼンテーションができる。
  8. 当院における急性期一般病棟、包括ケア病床、療養病棟の運営方針を理解して、患者さんの入院治療の計画を立てられる。
  9. 病床調節会議に参加し、担当患者さんの療養継続や在宅復帰のマネジメントを、病棟師長や患者支援室スタッフと協力しながら施行できる。
  10. 糖尿病の教育入院の患者さんに、適切な生活指導ができる。
  11. 当院の病棟看護師の勉強会の場で、簡単な教育講演ができる。
  12. 地域の医師会の臨床研究会で、症例報告ができる。
  13. 在宅酸素療法での適切な酸素量の処方、管理ができる。
  14. 睡眠時無呼吸症候群の診断と CPAP の処方、管理ができる。
  15. 三井造船従業員の会社健康診断の胸部 XP 、心電図、胃 XP 、血液検査所見を指導医とともにチェックできる。
  16. アスベスト健診で来られた患者さんの胸部 XP 、胸部 CT について胸膜プラークを画像上確認できる。